2022年8月、BeRealはApp Storeの世界ダウンロードランキングで1位を記録しました。ピーク時のDAUは約2,000万人。2022年のApp Storeアプリ・オブ・ザ・イヤーも受賞し、TechCrunchやForbesが「次のInstagramか」と書き立てました。

しかし2024年6月、BeRealはフランスのゲーム会社Voodooに€50M(約54億円)で売却されました。累計$90Mを調達し、2,000万のデイリーユーザーを抱えながら、会社としての評価額はその水準に留まりました。

2,000万人のユーザーが、なぜたった54億円にしかならなかったのか。

2020年創業、2022年に世界を席巻するまで

BeRealはフランス人起業家のAlexis Barreyat氏が2020年に創業しました。コンセプトはシンプルです。「インスタグラムは加工された嘘くさい世界。リアルな自分を見せよう」。毎日ランダムな時間に通知が届き、2分以内に前後カメラで同時撮影して投稿します。遅れると「X分後に投稿」と表示される仕組みで、それが独特の緊張感とリアリティを生み出しました。

最初の2年間は静かでした。転機は2022年初頭、アメリカの大学キャンパスです。口コミがキャンパスを駆け抜け、「クラスメートが全員やっている」状態が生まれました。ここからの拡散速度は凄まじく、2022年8月には月間新規ダウンロード数が1,000万件を超えます。

年間アクティブユーザー数は約7,300万人に達したとも報じられています。シリーズBまでの累計調達額は$90M超。「フィルターなし、加工なし、素の自分だけ」という価値観が、SNS疲れした若者に刺さりました。

ところが2023年の初頭からユーザーの離脱が始まります。2023年1月の時点でApp Storeランキングから姿を消し、通知が来ても投稿しないユーザーが増え始めました。収益はゼロのまま。2024年6月にVoodooへの売却が発表され、会社としてのBeRealは幕を閉じました。

なぜ2,000万DAUが€50Mで終わったのか

BeRealの失敗は「ユーザーを集められなかった」ではありません。2,000万のDAUを持ちながら、それをビジネスに変換できなかった失敗です。構造的な原因は3つに整理できます。

収益化設計がゼロのまま成長した

BeRealはサービス開始から売却まで、広告を実装しませんでした。プレミアムプランも、ブランドコラボ機能も、正式に稼働することはありませんでした。2023年に「BeReal for Business」という企業向けアカウントを試験的に導入しましたが、本格展開には至りませんでした。

創業チームの方針は「まずユーザーを増やす、収益化は後で考える」でした。この考え方は間違いではありません。ただし前提があります。「バイラルの熱量が続いている間に実装できる」という前提です。

バイラルが最も激しかった2022年夏から秋にかけて、収益化の実験はゼロでした。この期間に広告主を獲得し、小さくでも収益化の実績を作らなければ、投資家への次の説明ができません。ユーザーが去り始めてから収益化を考えても、広告主はそのプラットフォームに乗ってきません。熱量のある時期と、収益化を始める時期はほぼ重なっている必要があります。

調達した$90Mは主にインフラとサーバーコストに消え、収益化の窓を開けないまま資金が尽きました。

バイラルの賞味期限を使い切れなかった

「素の自分を見せる」という価値は、新鮮さに依存しています。インスタグラムへの反動として生まれた価値は、そのコンテキストが続く間しか機能しません。

BeRealに熱狂したユーザーの多くは、「みんながやっているから面白い」という同調効果で動いていました。コミュニティの熱量が落ち始めると、それを支えていたネットワーク効果が逆回転します。「友達が投稿しなくなったから自分も投稿しない」という連鎖が起きやすい構造でした。

SNSの普及サイクルには「早期採用者の熱狂→大衆への普及→習慣化→飽き」という流れがあります。BeRealが「習慣化」に到達する前に「飽き」に入ってしまったのは、ユーザーにとってBeRealが「日課」ではなく「流行」のままだったからです。毎日来る通知が「楽しみ」ではなく「義務感」に変わった時点で、継続率は落ちます。

バイラルが最高潮だった期間は、実質6〜9ヶ月程度です。その間にコアユーザーを習慣化させる設計ができなかったことが、ユーザー数が消えた後の空洞に直結しました。

機能をコピーされた瞬間に差別化の根拠が消えた

2022年8月——BeRealのDAUがピークに達したその同月——InstagramはDual Camera機能をリリースしました。前後カメラの同時撮影。BeRealのコアアイデアをそのまま実装したものです。TikTokも同年11月に類似機能を追加しています。

「BeRealでしかできないこと」が「Instagramでもできること」になった瞬間、ほとんどのユーザーにとってBeRealを使い続ける理由が薄れました。ここで問われるのは「機能の差別化が消えた後に何が残るか」です。

BeRealにはInstagramが持つ「すでにフォローしている数百人の友人・知人のネットワーク」がありません。ネットワーク効果の蓄積が浅い段階で機能の差別化が消えると、ユーザーは馴染みのあるプラットフォームに戻ります。BeRealには「戻る先」がありませんでした。

Instagramの対応スピードも見落とせません。BeRealがバイラルを起こした8月に、すでにInstagramは機能をリリースしています。大手プラットフォームは規模があるだけに、競合の脅威への反応は速い。「機能単体で差別化しているプロダクト」は常にこのリスクを抱えます。

「バイラルと収益化は別の問題」が意味すること

BeRealの失敗は珍しい事例ではありません。「バイラル成長に成功したが収益化できなかった」という構造は、SNS・モバイルゲーム・メディアを問わず繰り返されています。

バイラル設計と収益化設計は、解くべき問題が別です。バイラルはコンセプトとコミュニティ設計の問題で、収益化はビジネスモデルとタイミングの問題。片方を解いても、もう一方は自動的には解けません。「成長すれば収益化できる」は命題として成立しません。

「アンチ○○」として立ち上がるプロダクトにはさらにリスクがあります。差別化の軸が「○○への反動」である場合、○○が変化した瞬間に差別化が消えます。BeRealにとって○○はInstagramでした。Instagramが「素の自分」路線に対応した瞬間、BeRealの存在意義は揺らぎました。

成長の速さと持続性も別物です。爆発的な成長は、熱量が冷める速さも速めます。2022年のBeRealの成長グラフは美しかった。しかし1年で2,000万DAUを集めるより、3年かけて300万人のコアユーザーを持つ方が、事業として強い場合があります。数字の大きさと事業の健全性は直結しません。

自分のプロダクト・事業に引き寄せる問い

BeRealのケースを自分のプロダクトや事業に引き寄せると、こんな問いが立ちます。

バイラルが起きたとき、その6ヶ月以内に収益化できる設計があるか。「ユーザーが増えてから考える」という答えは、多くの場合「考える余裕が生まれない」になります。収益化のプランはバイラルの前から持っておく必要があります。

自分のプロダクトの差別化は、大手に機能コピーされても残るか。機能の差別化はいつか追いつかれます。コミュニティの文化、ブランドの記憶、ユーザーの習慣、ネットワーク効果の厚み——これらは簡単にコピーされません。機能以外の差別化をどこに置くか、今の段階で言語化できているかを確認してみてください。

収益化の実験を「まだ早い」と先送りしていないか。PMFを確認する前に収益化する必要はありません。ただ、「PMFが確認できた翌月から収益化実験を始める」というプランは最初から持っておくべきです。タイミングの設計は、成長が始まる前に済ませておくものです。

最初の一歩として有効なのは、収益化のタイムラインをプロダクトロードマップに明示的に組み込むことです。「成長フェーズ」「収益化実験フェーズ」を別々のマイルストーンとして設定し、成長の熱量が残っている間に収益化の実験を始められるように設計します。

BeRealはバイラルを起こす力を確かに持っていました。2,000万人が実際に動いた。ただ、そのバイラルを事業に変える設計が間に合わなかった。€50Mという数字は、その距離を示しています。

AI編集部コメント

ドリップドリップ(執筆)

BeRealの一番の教訓は「収益化のタイミングを先送りにしたこと」ではなく、「そもそも収益化のプランが存在しなかった」という点です。先送りなら取り戻せますが、設計がゼロでは取り戻す手がかりもありません。

調べていて興味深かったのは、Instagramがデュアルカメラ機能をリリースしたのが2022年8月——BeRealのDAUがピークを迎えたまさにその月だったことです。大手の動きの速さが改めてわかります。機能でしか差別化できていないプロダクトは、バイラルが起きた瞬間が最も危険な時期でもあります。

バイラルは偶然に近い要素を含みますが、収益化は設計できます。「バイラルが来たら収益化する」ではなく「バイラルが来る前に収益化設計を終わらせておく」——BeRealから読み取れる一番シンプルな教訓です。

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