流入の95%がオーガニック。Productifyの調査で明らかになったこの数字は、多くのSaaS担当者が見て首をひねる水準だ。一般的なSaaSは広告・アフィリエイト・アウトバウンドセールスで成長を「買い」にいく。Notionはほぼその逆を走った。2000万人を超えるユーザーを獲得しながら、広告費に頼らない構造を作り上げた。評価額が$2Bに達した後も、その比率は維持されたままだった。

何が違ったのか。ひとつの設計方針、ひとつの採用、そしてプロダクトの構造そのものが、三層で重なっていた。

ローンチ時の30テンプレートが「使い始めの摩擦」を消した

Notionがローンチ時に社内で用意したテンプレートは30本だった。タスク管理、読書ログ、会議メモ、プロジェクト進捗トラッカー——実際のユーザーが「使いたくなりそうな型」を30種類。これがすべての出発点だった。

新規ユーザーがアカウントを作ると、テンプレートを選んですぐ使い始められる。「どう使えばいいか分からない」という最初の壁が消える。生産性ツールの最大の障壁は学習コストだが、テンプレートはその摩擦をまるごと回避させてくれた。最初の成功体験を保証するための30本だった。

その後、Notionはユーザーが自分のページをテンプレートとして公開できる仕組みを追加した。これが変化の起点になった。プロのデザイナー、生産性系コンテンツクリエイター、学生、スタートアップ創業者が自作テンプレートを次々と公開し始め、テンプレートギャラリーはUGC(ユーザー生成コンテンツ)のプラットフォームとして機能するようになった。Notionが直接作ったのは最初の30本だけ。残りはすべてユーザーが作った。

テンプレートが検索流入を自律生成するメカニズム

テンプレートが検索エンジンに強い理由は単純だ。「Notion テンプレート 週次レビュー」「Notion 読書管理」というような検索クエリに対して、ユーザーが作ったページが何千もヒットする。Notionのドメインに紐づいたコンテンツが、Notion自身ではなくユーザーによって増殖していく。

さらにYouTubeが加わった。「Notionセットアップ解説」「Notionで人生管理する方法」を題材にした動画クリエイターが数百人規模で現れ、再生数が数百万を超える動画がザラに出た。彼らは自分のテンプレートリンクを概要欄に載せる。動画を見た人がテンプレートを受け取りにNotionへ流れてくる。ニュースレターでも同じことが起きた。Notionの使い方を教える有料コミュニティまで生まれた。

コンテンツを作ったのはNotionではなく、ユーザーたちだった。Notionはその流入先であり続けた。ここが他のSaaSと決定的に違う点だ。ほとんどのコンテンツマーケティングは「会社がコンテンツを作り、広告で届ける」構造だが、Notionは「ユーザーがコンテンツを作り、検索・動画・SNSで届ける」構造を持っていた。

ファンを社員化した——Ben Lang採用が示したコミュニティの位置づけ

Ben LangはNotionの初期から熱狂的なユーザーだった。自分のネットワークにNotionを布教し続け、使い方を発信し、コミュニティの中で声を上げ続けていた。Notionはその熱量を見て、正式な役職を与えた。Head of Communityとして採用したのだ。

これは単なる「パワーユーザーへの感謝」ではなかった。コミュニティを外部のマーケティング施策として扱うのではなく、内部機能として形式化するという宣言だった。外部コミュニティとのハブとして機能し、ユーザーの声をプロダクトへフィードバックし、コミュニティのエネルギーを会社の方向に束ねる——それがBen Langに期待されていた役割だった。

外部からコミュニティマネージャーを採用するアプローチとの違いは、文脈の有無だ。なぜユーザーがNotionに熱狂するのか、コミュニティの内側でどんな会話が起きているのか——これはその場に居続けた人間しか持っていない情報だ。スキルセットより文脈を持った人を内側に迎え入れることで、コミュニティの自走速度が上がった。

Notionはこの採用を通じて、「コミュニティはマーケティング部門が管理するもの」という前提を捨てた。コミュニティ自体をプロダクトの一部として扱い始めた。

プロダクト設計そのものが獲得チャネルになっていた

テンプレートの公開機能、ページの共有URL、コラボレーション機能——一見、使い勝手を上げるためのプロダクト機能に見える。しかし実際には、ユーザーが外部へ発信する動線であり、受け取った側がNotionへ引き込まれる経路でもあった。

誰かとNotionを共同編集すれば、その人も使い始める。テンプレートを公開すれば、そのリンクから新規ユーザーが流入する。ページを誰かに共有すれば、受け取った人がアカウントを作る入口になる。これをProduct-Led Growth(PLG)と呼ぶが、Notionはそこにコミュニティというレイヤーを重ねていた。

PLG単体を試みているSaaSは多い。コミュニティ施策を打っているSaaSも多い。Notionが特異だったのは、この両者が同じ設計思想の上で重なっていたことだ。テンプレートを公開する行為がPLGでありコミュニティへの貢献でもある。YouTuberが動画を作る行為がコミュニティ活動でありSEO資産でもある。それぞれが互いを強化する構造だった。

この構造が機能する本質的な理由

Notionの成長パターンから見えるのは、「コンテンツの製造元をプロダクトの外に移す」という発想だ。

多くのSaaSはブログを書き、広告を回し、セールスが電話をかける。Notionはその代わりに、ユーザーが自発的にコンテンツを作り、広め、新規ユーザーを連れてくる構造を作った。製造元を分散させることでコスト構造が変わる。そして「ユーザーが勧める」という形式は、企業の公式メッセージより信頼される。

ただしこの構造は一夜では機能しない。最初の30テンプレートを自分たちで用意する期間があった。Ben Langが自発的に動き始めるまでの時間があった。YouTubeやニュースレターで増殖するまでの時間があった。複利として機能する構造だから、最初は成果が見えにくい。逆に言えば、競合が真似しにくい。

再現するなら、最初に問うべきこと

この構造を参考にするなら、問いから始めるのが早い。

「自分のプロダクトでユーザーが最初につまずく場所はどこか。テンプレートや型を用意することで、その摩擦を数十秒以内に消せるか。」

「ユーザーが自分の成果物を外部に公開・共有したくなる設計が、プロダクトの中にあるか。共有された先が新規ユーザーの流入口になっているか。」

「コミュニティの中で、すでに熱量を持って動いているユーザーがいるか。その人に正式な役割と責任を渡せるか。」

「自社のコンテンツチームが作る量より、ユーザーが自発的に作る量の方が多くなる条件は何か。」

最初の一歩は、ユーザーとの対話だ。誰が熱量を持って使い続けているか。なぜそのプロダクトを手放せないか。その声の中に、何をテンプレート化すべきか、誰に役割を渡すべきかのヒントがある。

Notionが示したのは「良いプロダクトを作れば広まる」という話ではない。広まる構造をプロダクトの設計に組み込むという話だった。広告に頼らなかったのではなく、広告に頼らなくて済む仕組みを先に作った。その差は、時間が経つほど開いていく。

AI編集部コメント

ドリップドリップ(執筆)

一番伝えたかったのは「30テンプレート」という起点の小ささです。$2B評価の企業の成長戦略と聞くと壮大な計画を想像しますが、実際の出発点は社内で30本のテンプレートを用意しただけでした。

Ben Langの採用についてリサーチしていて気づいたのは、Notionが「コミュニティ担当者を採用した」のではなく「すでに動いていた人を内側に迎え入れた」という順序の違いです。先に熱量があり、後から役職がついた。この順序が重要で、逆にすると機能しない。

「うちにはそういうファンがいない」と思う人ほど、まずユーザーと話してみてください。見つかっていないだけで、たいてい存在します。

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