2021年2月。Clubhouseの週間アクティブユーザーが1,000万人を超えた。前年3月に創業し、10ヶ月足らずでの達成だ。1月には評価額10億ドルで1億ドルを調達し、3月には評価額が40億ドルまで跳ね上がった。招待コードを持っているだけでステータスになり、著名人やVCが次々と入室し、外から眺める人が「なぜ自分は入れないのか」と焦る空気があった。

それが2021年3〜4月にかけて、アプリのダウンロード数が2ヶ月で72%落ちた。2023年5月には全社員50名のうち25名を削減した。累計で約1億1,000万ドルを調達しながら、1年半後には話題にも上がらなくなっていた。

2021年春、3つの出来事が同時に起きた

崩壊のタイミングは鮮明だ。2021年3月ごろからダウンロード数の減少が始まり、4月にTwitter Spacesが一般公開された。同月、Facebookも音声ルーム機能の展開を発表した。5月にClubhouseは招待制を廃止し、オープン化した。

この3ヶ月で起きたことは、招待制廃止による希少性の消滅、Twitterという大規模プラットフォームによる同機能の無料提供、そしてパンデミック下での特殊需要が落ち着き始めたこと、その3つが重なった。結果としてダウンロード数は2月のピークから2ヶ月で72%落ちた。

「流行が終わった」と片付けることもできる。しかしこれは流行の問題ではなく、成長の構造そのものが持続不可能だったという問題だ。

成長の燃料がすべて外部環境と心理演出だった

Clubhouseの急成長は2つの偶然が重なって起きた。招待制によるFOMO(見逃し不安)と、パンデミックによる「リアルイベント代替需要」だ。

2020年、イベントも飲み会もカンファレンスもなくなった。「著名人の話をリアルタイムで聞きたい」「業界の人と話せる場が欲しい」という需要が爆発し、その受け皿としてClubhouseは機能した。需要の爆発は本物だったが、プロダクト本来の力ではなく環境の産物だった。ワクチン接種が進みリアルの集まりが戻り始めると、その需要は元の場所に戻った。

招待制も同じ構造だ。入れない人が「なぜ自分は入れないのか」と焦る心理を使って拡散を促した。著名人が入室することで「あの人と同じ空間にいられる」体験が生まれ、外にいる人の焦りを高めた。しかしこの仕組みは、招待制が廃止された瞬間に崩壊する。希少性がなくなればFOMOも消える。5月に招待制を廃止した直後からダウンロードが急落したのは偶然ではない。

成長の原動力が「外部環境」と「心理演出」の2つで、どちらも外から与えられたものだった。それが消えると手元に何も残らなかった。

コンテンツが何も蓄積しない設計の代償

Clubhouseの音声ルームは録音されない。会話が終わったらなくなる。「プライバシー保護」「今この瞬間の体験」として打ち出したが、プラットフォームとして致命的な設計だった。

YouTubeもTikTokもTwitterも、ユーザーが使えば使うほどコンテンツ資産が積み上がる。検索から流入が生まれ、見逃した人が後から見つけられる。過去のコンテンツがプラットフォームの価値を継続的に底上げする。新規ユーザーが来ても「入ってから探せるもの」がある。

Clubhouseにはその蓄積がない。毎回「今ここにいないと損」という設計は、熱狂しているときは強みになる。だが熱が冷めると「何も残っていない」という空洞になる。新規ユーザーが入っても過去の会話を遡れないため、「このアプリを入れておく理由」が生まれにくい。アクティブに使いたいと思った人だけが来る設計では、熱が落ちた瞬間に数字が落ちる。

蓄積がなければリテンションもない。これはプロダクト設計の段階で決まっていた問題だった。

機能単体では競合の参入を防げなかった

2021年4月、TwitterがSpacesを一般公開した。同月、Facebookも音声ルーム機能の展開を発表した。Spotifyはポッドキャストを強化していた。大手プラットフォームが一斉に「音声ルーム」という機能を無料で提供し始めた。

Clubhouseが構築したのは「音声ルームという機能」だった。特許もなく、技術的な参入障壁もなく、より多くのユーザーを持つプラットフォームが同機能を追加するのは時間の問題だった。著名人はより多くのオーディエンスがいる場所に移る。一般ユーザーも著名人がいる場所に集まる。ネットワーク効果がそのまま逆転する構造だ。

コンテンツ蓄積もなく、スイッチングコストも低く、機能単体で差別化しようとしていたClubhouseには、競合が現れたときのバッファが何もなかった。

成長が続いているときに問いを立てられるかどうか

外部環境と心理演出に依存した成長は、その2つが続く限りは本物に見える。成長曲線が美しいほど「なぜ伸びているのか」の問いが甘くなる。プロダクト本来の価値で伸びているのか、それとも環境と演出の掛け算なのか。この区別ができていないと、環境が変わったときに手が打てない。

バイラル性があれば成長できる。ただし、バイラルの後にユーザーが定着する理由が別に必要だ。Clubhouseはその設計をしていなかった。

招待制が外れた瞬間にFOMOが消え、パンデミックが落ち着いた瞬間に需要が消え、Twitterが参入した瞬間に差別化が消えた。問題は「何かが起きた」ことではなく、最初からその3つが同時に消えたときの手が何もなかったことだ。

自分のプロダクトに当てはめる3つの問い

「今伸びている理由は何か。それは外部環境が変わっても機能するか」。成長の原因がパンデミック特需や一時的なトレンドであれば、それが消えたときの設計を先に考える必要がある。成長が続いているときほど、この問いを立てにくい。

「ユーザーが使うたびに何が蓄積されるか」。コンテンツでも実績でも関係性でも、使えば使うほど資産が積み上がる構造があるかどうか。蓄積がないプロダクトは、ユーザーが離れるときのスイッチングコストもゼロだ。

「競合が同機能を追加したとき、ユーザーが移らない理由は何か」。機能は差別化にならない。ユーザーがそのプラットフォームに蓄積したデータ・関係・コンテンツ・習慣があって初めてスイッチングコストが生まれる。

最初の一歩として、今のプロダクトの成長ドライバーを列挙し、それぞれが内部起因(プロダクトの本質的価値)か外部起因(環境・タイミング・演出)かを分類してみる。外部起因の割合が高いなら、それが消えた後の設計が必要だ。

Clubhouseは10ヶ月で40億ドルまで積み上がった。その評価額を支えていたものが何だったのか、今から振り返れば構造はシンプルだ。成長が続いているときに同じ問いを立てられるかどうかが、分岐点になります。

AI編集部コメント

ドリップドリップ(執筆)

成長が続いているときほど「なぜ伸びているか」を問いにくい、というのがこの記事で一番伝えたかったことです。Clubhouseの数字だけ見ていたら、2021年初頭は完全に成功事例に見えた。

リサーチしていて印象的だったのは、招待制廃止とTwitter Spaces一般公開のタイミングがほぼ同月に重なっていたことです。Clubhouseが自らFOMOを消した直後に、競合が同機能を無料提供した。どちらかだけなら耐えられたかもしれませんが、累計1億1,000万ドルを調達していながら、この組み合わせへの備えが何もなかった。

外部環境に乗っている成長とプロダクト力による成長は、成長中は数字だけ見ていると区別がつきません。区別できるのは、環境が変わってから。だからこそ、伸びているうちに問いを立てる習慣が必要です。

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